号外 祝九段 藤井聡太さん

 7月3日に行われた棋聖戦で、棋聖・王位のタイトルを持つ藤井聡太さんが、名人・棋王・王将のタイトル保持者の渡辺明三冠(37歳)の挑戦を退け、五番勝負を開幕3連勝のストレートで初防衛を果たし、同時に九段に昇段しました。
 藤井聡太さんの年齢は18歳11ヶ月です。なんと今まで渡辺三冠が保持していた九段昇段最年少記録である21歳7ヶ月を大幅に更新しました。

 藤井聡太さんは、平成28年(2016)10月、14歳2カ月の史上最年少で四段に昇段し即プロデビューしました。
 「藤井四段」がそのまま愛称となり棋界で活躍を始めますが、あれよあれよという間に段位を駆け上がり、このたび最高の九段に昇段しました。

 将棋の段位は、将棋の技量すなわち「棋力」によって与えられますが、その棋力はすべて対戦成績を拠り所とする昇段システムとなっています。

 日本将棋連盟の昇段規定によると、例えば九段は①竜王位2期獲得②名人位1期獲得③タイトル3期獲得④八段昇段後公式戦250勝と決められ、この①~④いずれか達成できれば自動的に九段に昇段します。八段以下も同様で、定められた対戦成績を上げなければ昇段することはできません。

 したがって将棋では、剣道のような段位審査が行われることはありません。
 実戦即審査ですから、段位の授受について、人為的なものが持ち込まれることは全くなく、極めてピュアな世界です。

 剣道では、○段取得後△年以上修業した者、とか、満□歳以上の者、という「受審資格」が必要とされますが、将棋は、すべて戦果によるものです。
 一見、剣道はいろいろ制約を設けており、将棋の方が自由度が高いように映りますが、その実まったく逆です。
 剣道では修業者の成長や発達段階に応じて段位の「付与基準」を設けていますが、将棋はいきなり勝負の荒海に放り込まれる厳しい世界です。

 また、対局での勝敗も、敗者が負けを認める「投了」をもって決着がつくので、誤審が生じるおそれは全くありません。
 誤審がつきものとされ、忸怩たる思いのわれわれ剣道人としては、実にうらやましい限りです。

 といって剣道の試合において、将棋の投了に匹敵する「負けの自己申告」が果たして可能でしょうか。
 日頃の稽古では、打たれたとき「参りました」と潔く頭を下げることができても、乾坤一擲の試合場面で、投了のような態度が取れるか、といわれれば否というしかありません。
 
 剣道の段位は、段位審査によって技術的力量を観ますが、合格・不合格の判定は審査員のハラ一つで決まります。
 六段以上の審査は6人の審査員によって行われますが、審査員はそれぞれの主観でもって合否の判定をします。
 そして6人中、「合」判定が4票以上で合格、3票以下は不合格となります。
 これは審査員6人の「主観の総和」をもって客観性を担保しようとするものです。

 剣道と将棋を比べると、段位の面でも勝負の面でも大きな違いがありますが、一つ共通することを見つけました。
 引用先は不詳で恐縮ですが、昔、将棋の対局をよく言い表している、と思ったので書き写したものです。
 将棋の棋士間には、残らず共有する勝負観があります。これをご紹介いたします。

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 相手が指すからこそ、こちらも指せる。
 対戦相手は敵であり、同時に理想の棋譜を描くための協力者、同じ盤上を旅する同伴者となる。
 ガッツポーズも雄叫びもない。
 時に勝者の方が尚深く頭を下げ、むしろうな垂れているように見える場合さえある。
 そこに感じ取れるのは、相手を尊重する気持ちとともに、将棋そのものに対する畏怖の念である。

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 いかがですか。
 これはわれわれ剣道人が理想とする「交剣知愛」の世界そのものであります。
 大いに共感を呼びます。

 あらためて藤井聡太さん、九段昇段おめでとうございます。
つづく
頓真

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